第91章 流れる月日
杏「…………そうか。もう君の胸にユキはいないのだから何かを知っていて言った訳では無いのだったな。怖がらせてしまってすまない。」
杏寿郎はそう柔らかく言うと安心させるように桜の頭を努めて優しく撫でた。
杏(信頼はしているのだが反射的に苛立ってしまった。桜には優しくあらねば。)
その杏寿郎の笑みを見てユキが目を細める。
ユ『杏寿郎は内面も歳相応に戻っているね。二十歳の頃よりはましだが 桜の事となると感情を隠しきれない。今もそうだ。』
「……え?」
ユ『その反応、杏寿郎は桜に隠して…、』
杏「そういえば今日が誕生日だという話はしていなかったな!ユキ、今日で桜は23歳になるぞ!!」
桜の顔色でユキの言葉を予測した杏寿郎は会話の邪魔をした。
ユ『……ああ、そうだね。川で溺れ命を落とさなくて良かった。』
「うん…。溺れたことに感謝しちゃいけないけれど、あの時ユキが願ってくれたおかげで杏寿郎さんに会えた。そう考えるとユキはキューピットね。」
ユ『きゅーぴ…?』
杏寿郎は話題が変わったのを確認すると胸を撫で下ろし、楽しそうにする桜を見つめ続けたのだった。