第90章 行動が早い男
杏「俺が気に食わないのでないのなら受け入れて下さい。後悔はさせません。」
杏寿郎らしい強引なひと押しに桜は昔を思い出して少し笑みを漏らす。
勇之は桜に似て咄嗟の時に面食らい易く押しに弱い時があるのだ。
(親子揃って似たような事をされてしまっている……。)
杏「俺の妻になって頂けたら職場の男の意識も変わりますし、揃いの指輪によって道行く男への牽制も少し楽になります。」
杏寿郎は攻め方を変えてプレゼンを始めた。
すると勇之の体がぴくりと揺れ、分かり易く反応する。
勇「……………桜は…職場でも……?だが……、君と交際していると知らなかったのか…?」
杏「ただの噂だと勘違いされ……、」
杏寿郎は桜の身に何があったのかを説明しようとしたが、それを聞いた勇之が失神するか仕事を辞めさせようとするのではないかと思い口を噤んだ。
一方、その様子を見た勇之は再び口を開けて固まる。
勇「………………何か……されたのか…。それでは、だが……、杏寿郎君は桜を守れていないじゃないか。」
「違うの!!」
由「桜……!」
「話に割って入ってごめんなさい。でも、その人は私がその人に好意を持っているってすごく勘違いをしていたの。杏寿郎さんと私が恋人だっていくら言っても "照れ隠し" だとか、そういう風にしか受け取ってくれなかった。でも……、私には証拠がなかった。」
勇「……………………。」
証拠なら理事長から許可の下りた婚約指輪で事足りたが、その事について桜は忘れていたし 勇之は知らなかった。