第90章 行動が早い男
杏「まず、俺は愛情の大きさと時間は関係無いと思っています。勇之さんの愛情が俺のそれより劣っているなどと思った事はありません。」
まずは訂正しておきたかった点を述べると杏寿郎は太ももに置いてあった握り拳を強く握り直した。
杏「年齢に関しては勇之さんの仰る通りだと思います。俺は29歳で適齢期ですが桜さんはまだ若い。桜さんが27、俺が33の時に籍を入れるべきかもしれません。ですが、申し訳ありません。俺が待てそうにないんです。」
何の捻りもないただ正直な杏寿郎の言葉を聞くと どんな説得をされるのだろうと身構えていた勇之は一瞬口を開けたまま固まる。
勇「……では、杏寿郎君の意志次第ということなのか…。」
キッチンでそれを聞いていた桜は『自身も望んでいる、杏寿郎1人の意志ではない』という事を伝えるべきか迷い、由梨に視線を遣った。
しかし由梨は首をふりふりと横に振る。
(杏寿郎さんがんばって……!)
杏「そうです。ですが引くつもりはありません。早く桜さんを妻と呼べるようになりたい。そして早くあの結婚指輪を付けていてもらいたいのです。」
勇「…………………………。」
純粋に杏寿郎だけの想いと向き合う事になるとは思っていなかった勇之はどう返そうか迷ってしまった。