第90章 行動が早い男
杏「 "勇之さん" !!」
大きな声で名を呼ばれると勇之は驚いて思わず顔を上げる。
そして笑みを消し、真剣な表情を浮かべる杏寿郎と目が合うと泣きそうな顔になった。
勇「……………まだ…23歳だ……。」
杏「桜さんを俺の妻として迎える事を許して頂けないでしょうか。」
自身の訴えに対し容赦無く放たれた杏寿郎の真っ直ぐな言葉に勇之はたじろぐ。
勇「……とても大事に育ててきた…桜は私の宝なんだ。」
杏「必ず大切にし、幸せにすると誓います。」
勇「君が……、君が、私より長い間桜を想ってくれていて、そして私より強く…いや、誰よりも強く 桜を十二分に守れ、幸せに出来るであろう事は分かっているんだ。」
勇之は訴えるような声色を出した。
杏寿郎はそんな勇之から目を逸らさず、表情も変えない。
勇「だが……、私だって私に出来る限り長くあの子を愛してきた。大正時代に会えていたらもっと長い時間……君に負けないくらい長い時間あの子を愛していた。そして嫁にいくのは早くても27歳くらいだろうと思っていたんだ。嫁にいく事があの子の意志で、それがあの子の幸せだとも分かっている。だが………まだ…あまりにも若いだろう……。」
悲痛とも言えてしまう勇之の言葉に杏寿郎は少し間を置いてから口を開く。