第90章 行動が早い男
「杏寿郎さん、おはようございます。」
杏「…む……、」
杏寿郎はエプロン姿の桜にそう声を掛けられると細い手首を捕まえて布団の中へ引きずり込んだ。
「きょ、杏寿郎さん…!ごはんが…、」
杏「少しだけだ。今日は昼から君のご実家へ行くのだろう。暫く触れられないのなら今のうちに少しでも多く触れていたい。」
杏寿郎はそう珍しく分かり易い我儘を言うと『もう…。』と困ったように言う桜をぎゅっと片手で抱き締め、冷えた桜の手に自身の指を絡ませる。
杏「随分と冷えているな。」
「……でもすぐに温まりそうですよ。」
桜の言った通り、杏寿郎の高い熱によって炊事で冷えた桜の手はあっと言う間に温まった。
そして桜は温めてもらった礼を言うと布団から出ようとする。
杏「………………。」
「わぅっ」
杏寿郎はもう一度桜の手を引っ張ると今度は自身の胸の上に桜をうつ伏せに倒させた。