第90章 行動が早い男
「怒涛です……杏寿郎さんの押しの強さに流されています………。」
助手席でそう呟くと杏寿郎は笑い声を上げる。
杏「昔も言っていたな!初めてアプローチをした時に『押しが強すぎる』と!!」
「ありましたねえ…。」
杏「あの時は珍しく流されてくれなかったが 君は基本的にはとても流されやすいなあ。」
そう言う杏寿郎はどこか愉快そうだ。
桜がそれに不満そうな唸り声を上げると杏寿郎は笑いながら謝ってエンジンをかけた。
杏「愛らしいと言っているんだ、そう拗ねないでくれ。ただ流されて気が付かぬ間に式場の候補を決めてしまったとは思っていなかったのでな!」
「う。」
『拗ねるな』と言う割に意地の悪い言いっぷりに桜は横の窓の方へ顔を向けてしまう。
杏「すまない、すまない。」
その声はまだ面白がっているようであった為、桜は暫く頬を膨らませながら外を眺め続けた。
信号待ち中に杏寿郎が桜の様子を確認すると 僅かに見える右頬が膨れている。
杏「それは逆効果なんだがなあ。」
「……え?」
杏「む、青だ。」
拗ねていた事を忘れて振り返った桜の視線と前を向いた杏寿郎の視線は重ならなかった。