第90章 行動が早い男
「お正月はどう過ごしましょうか。」
杏「年末年始に関しては別々でも良いと思っている。君のお父様に『最後の年末年始が1年前に終わっていたなど思いもしなかった。』と恨まれてしまいそうだからな!」
「……確かに。絶対に言います。では…30日は別行動ですね。」
桜がそう寂しそうに言うと杏寿郎の口角が上がる。
杏「うむ!寂しいな!!俺の匂いが付いた服を持っていくと良い!電話もしよう!!」
「……………………。」
服を貸してもらえる事をとても嬉しく思ってしまった桜は顔を赤くさせて俯いた。
杏「その代わりに君のも貸してくれ。よく着ている部屋着があるだろう。あれを頼みたい。」
それは杏寿郎が贈った部屋着であった。
ひと目見て女性物だと分かるキャラクターの耳付きフードの服を実家に持ち帰らせて良いのだろうかと桜は首を傾げたが、運転をする杏寿郎の横顔が期待に満ちていた為 仕方無く許可を出した。
翌日、『空けておいてくれ』と言われたその日にせっかちな婚約者が何をするのか 桜は何となく分かっていた。
連れて来られたのは結婚式場の相談カウンターであった。
杏「父上は母上との式を挙げられた教会を勧めて下さったのだが 友人に訊いたところ式の主役は花嫁なのでこういった場で彼女の理想を聞きながら選んだ方が良いと言われた!」
「わあ……こんな所があるんですね……。」
ビル内に入ると清潔感のある空間が広がっており、仕切りがされてあるデスクがいくつか並んでいる。
そして至る所に飾られた華やかな花が訪れるカップルを祝福しているようであった。