第90章 行動が早い男
杏「……桜?……本当に大丈夫か…。あと少しなのでそれまで堪えてくれ。本当にすまない。」
次の駅に着くと真っ赤になった桜を怖いほど真顔の杏寿郎が急いで下車させる。
そこで漸く桜が消え入りそうな声で見惚れていた事と謝罪を伝えると杏寿郎の顔にやっと安心したような表情が戻ったが、結局『満員電車に桜を乗せると神経がすり減る』という理由でタクシーを拾ったのだった。
「ただいま帰りましたー。」
杏「ああ、帰ってきたな。」
「はい!」
関係が変わった2人は微笑み合うと靴を脱ぎ、手を洗ってソファに座る。
時刻は20時、まだ寝るには早い時間だ。
テレビを点けてぼんやり見ていると桜の左手に杏寿郎の右手が伸びる。
そして優しく大事そうに包んで掴むと薬指をすりっと撫でた。
「杏寿、」
杏寿郎は名を呼ばれる前に桜の脇に手を差し入れてひょいっと持ち上げると 自身の足の間にその体を収める。
杏「どうして自分から此処へ来なかったんだ。つれない事をしないでくれ。」
少しだけ機嫌を欠いた声に桜は少し笑みを溢した。
「家に帰ってからもくっついていたら杏寿郎さんがお腹いっぱいになっちゃうかなって思ったんです。」
そう言って振り返り にこっと微笑む。
すると杏寿郎は不可解そうな表情を浮かべた。