第90章 行動が早い男
杏「平和だな…。」
鬼狩りとして何度も死線を潜り抜け、悲惨な戦争も経験した杏寿郎はそうぽつりと呟くと桜の小さな手を大事そうに握り直す。
「…………………………。」
1年にも満たない短い期間、それも殆どの時間は後方支援に徹していた桜は同じ立場に立って『そうですね。』と相槌を打てなかった。
杏寿郎は黙ってしまった桜に気が付くと再び桜の手を握り直して少し自身の方へ引く。
「わぅっ」
杏「『幸せだ。』と言っただけだ。それより俺の腕に君の腕を絡めてくれないか。先程から目に入るカップルがそのようにしていてとても羨ましく思っていた!」
そう言いながら見下ろす杏寿郎の瞳はひたすら明るく、期待に満ちている。
桜はその瞳に安心すると周りを見て参考にしながらおずおずと腕を絡めた。
杏(…………………………。)
杏「うむ!仲良しだな!!」
「は、はい!」
杏寿郎は桜の柔らかい胸が自身の腕に押し付けられてしまっている事を指摘しそうになったが なんとか堪えて笑顔を作った。
それを見て桜も顔を赤らめつつ笑顔を浮かべる。
「手を握るのも大好きですが、これはこれで大人っぽいです!」
杏「そうだな!!」
桜は杏寿郎の声の大きさに少し首を傾げるも やはりどこまでも眩い笑顔を見ると微笑み返した。
その後、桜が人を避けようとしたり無意識に甘える度に柔らかい胸のふにふにとした感触を意識してしまった為、杏寿郎はイルミネーションを見終えるまで耐えてから『腕を絡めるのはここまでだ!!』と言って再び手を握った。