第90章 行動が早い男
それを見て杏寿郎は満足そうに笑い、桜の意見を聞きながらも 持ち前の判断の早さを発揮してメニューをあっという間に決める。
そして先に運ばれてきたドリンクを手に取ると2人は微笑みあって乾杯をした。
「…………………………。」
桜は昨夜から定期的に黙ってしまう時間があった。
それでも杏寿郎は何も声を掛けず、その度に桜の顔を じっと見つめている。
桜が黙りながら見つめているのが自身が贈った指輪だったからだ。
杏(随分と気に入ってくれたようだな。)
桜は杏寿郎の視線の先で優しく柔らかい微笑みを浮かべている。
その温かい笑みがなんとも幸せそうで 杏寿郎はいつまでも見ていたいと思ってしまうのだ。
しかし杏寿郎が話し掛けなくても桜は毎度ひとりでにハッとして我に返る。
その度に杏寿郎は気付いていない振りをした。
今は目の前に出されたバケットを急いでアヒージョに浸けて『うまい!』と言っている。
杏「桜も早く食べると良い!海鮮の出汁がよく出ているぞ!!」
「わ、ほんとですか?大好物です!」
表情は ほっとしたものから わくわくとしたものへと変わり、桜は迷わずバケットを手に取った。