第90章 行動が早い男
杏「17時半で予約をしている煉獄だ。」
「あれ…?いつの間に予約してくれていたのですか?」
すっかり日が沈んで暗くなった屋外に出てすぐ、杏寿郎はイタリアンの店に入ると店員に案内されながら軽く振り返る。
杏「流石にクリスマスとなると混むと思ってな。昼に予約しておいた。18時以降となるとどの店も既に埋まっていて焦ったぞ。」
「そ、そうだったんですか…ありがとうございます!クリスマスってすごいんですね。」
外出し慣れぬ桜は杏寿郎を見つめながら『大人っぽい!』と目を輝かせ、決して慣れている訳ではない杏寿郎は少し困った様な笑みを返した。
杏「今日のデザートはクリスマス仕様らしいぞ。頼むと良い。」
「わあ!」
桜が楽しそうな顔をする度に杏寿郎の心は満たされ、そして更にもっと何か喜ぶ事をしてあげたくなってしまう。
杏(今まで出来なかった事はもっともっとあるだろう。春は人が多くとも花見をさせてやりたいし、夏だって桜さえ忙しくなければ花火大会や祭りにも連れて行きたい。これからは人が大勢居る場所でも俺の隣で楽しんでもらいたい。もっと…、)
桜が席に着く前に杏寿郎は桜の心底楽しそうな微笑みをするりと撫でた。
杏(…もっと、こうして笑っていて欲しい。)
「きょ、杏寿郎さん…、」
急に頬を甘く撫でられた桜は顔を赤くして眉尻を下げている。
杏寿郎も席に着くと目を細めて優しく微笑んだ。
杏「どうかしたか。」
『大した事はしていない。』という態度を取られると、桜は少し口を開けたり閉じたりして困った顔をしていたが 結局口を噤んで首をふりふりと横に振った。