第16章 目覚めた女と諦めない男
その言葉に桜は閉じかけていた目を開く。
「え?冷たかったんですか?」
杏寿郎もその言葉に首を傾げる。
杏「酷く冷たかったぞ。」
「……あの石…ユキの神社にあった石で、昔から持ってたんです。毎日、朝晩ぎゅってして…。そうするといつもぽかぽかするんです。」
杏「むぅ…御神体のような物なのか。」
「御神体…?」
杏「ああ。神が宿ったもの、または、神へ声を届かせるもの…一番身近なもので言うと桜が言った通りお守りだな。」
「ユキの面影を探して拾った石だったけど…、本当にユキと繋がってたんだ…。」
桜はそう驚いていたが、視線を感じてすぐに顔を上げる。
すると杏寿郎は困ったような顔をしていた。
杏「俺が持った時はぽかぽかするどころか酷く冷たかったのだが、嫌われているのだろうか。」
「…………………。」
ごまかせる自信がなかった桜は、目を泳がせて口を閉じた。
杏「そうか……。」
(う…っ!神様に嫌われるってどんな気分なんだろう…!)
「………あの、杏寿郎さんが悪い訳ではなくて…、若い男の人だからっていう理由です…。たぶん、ユキも杏寿郎さんの事をいつか分かってくれると思います…。」
杏「若い男、か。」
杏(ユキはおそらく桜を中心に動いている。だとすると、若い男を良く思っていないのはユキではなく桜か?)
そう思いながら腕の中で脱力している白猫を見る。
杏(そんな風には見えないが…。思い違いだろうか。)
桜の背中を優しく撫でてみる。
そうすると腕の中で気持ちよさそうにする桜が面白くて杏寿郎の頬は緩んだ。
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そして、会話が切れると撫でる音と呼吸音だけになり、杏寿郎の瞼は落ちていった。
それをなんとか起きたまま確認した桜は、ほっと息をついてから目を瞑る。
そして程なくして寝息が重なった。