第89章 ※漸く訪れた一夜
杏寿郎に体を洗われながら桜はずっとほわほわとした笑みを浮かべている。
杏「愛いな。幸せそうだ。」
そう言いながら頬に飛んでしまった泡を濡れた手で拭うと桜の瞳が杏寿郎をしっかりと捉えた。
「幸せです…。早く杏寿郎さんの奥さんになりたいです。」
杏寿郎はその願いに にこっと明るい笑みを返す。
杏「すぐに叶う。本当に長かった。…漸くだ。漸く君をまた妻と呼べる。」
2人とも "やっと" という同じ意識はあったが、そこには40年の差がある。
桜が残した品々や写真だけを見て想いを募らせた杏寿郎の言葉はとても重かった。
(杏寿郎さんが記憶を取り戻したその日にこの人を受け入れたかった…。)
そう思いながら杏寿郎を抱き締めると 何となく気持ちを察した杏寿郎が抱き締めてから『気にするな』というように頭をぽんぽんと撫でた。
風呂場から出ると互いの髪を乾かし、水を飲んでから漸くベッドへと向かう。
杏「少し遅くなってしまったので明日はチェックアウトの正午までのんびりとしよう。ゆっくり休んでくれ。」
「はい。…おやすみなさい、杏寿郎さん。」
杏「うむ。おやすみ、桜。」
杏寿郎は目をパッチリと開いている桜を寝かし付けるように瞼にキスを落とした。
すると桜は少し眉尻を下げたが少し微笑んだ後に大人しく目を瞑った。
それを確認すると杏寿郎は暫くぼーっとその顔を眺める。