第89章 ※漸く訪れた一夜
「大人になるとビールのおいしさが分かるようになるって言いますよね。杏寿郎さんはいつから美味しいと思うようになりましたか?」
杏寿郎はスリッパが大きくて躓いてしまった桜をすぐに抱きかかえると 思い出すように眉を寄せる。
「わ、ありがとうございます。」
杏「構わない。……そうだな、学生の頃は俺も好んで飲まなかったぞ。働きだしてから気が付くと飲むようになっていた。」
「じゃあ私ももうすぐお世話になるかもしれないんですね。」
桜はソファに下ろしてもらいながらそう楽しそうに微笑んだ。
杏寿郎も隣に座ると微笑み返し、テレビを点ける。
杏「いつから飲んでいないんだ?今は飲めるかもしれないぞ。正直に言うと君にあまりウイスキーを飲ませたくない。」
「20歳になってすぐに1度チャレンジしたっきりです。度数が高いからですか?」
杏「そうだ。思い出となる日に潰れられては困る。となればビールに再チャレンジだな!」
桜は苦手意識から少し眉尻を下げたが、すぐに頭をふるふると振ると 握りこぶしを作って『頑張ります!』と言った。
杏「頑張る事ではない。無理そうならジュースもあったのでウイスキーを薄くなるまで割ろう。ただしその場合は俺にやらせてくれ。」
「ウイスキーをジュースで……?」
杏「うむ。美味いぞ。ジュースをそのまま飲んでも良いがこういう日は2人で酒を飲みたい。」
そう言いながら杏寿郎がビールを開ける。
桜はその音を聞くと慌てて杏寿郎からビールを渡してもらい、先に杏寿郎のグラスに注いだ。