第89章 ※漸く訪れた一夜
「ですが婚約指輪だと職場では付けられないですし残念で、」
杏「付けて良い。お館…、理事長さんには許可を頂いている。君は色々とトラブルに巻き込まれがちだったからな。常に付けて周りにしっかりと見せておいてくれ。見せる間も無く結婚指輪に変わるかもしれんがな。」
それを聞くと桜は小さく笑った後に返事をし、再び きゅっと杏寿郎を抱き締めた。
「ああ、幸せだなあ。」
杏「うむ。ご両親とみのる君には君の誕生日に報告をしたいと思っている。俺の方へはそれまでの間に行こう。その日に戸籍謄本も貰いに行くぞ。」
「……?…………はい……。」
杏寿郎がしようとしている手続きの仕組みを知らなかった桜は首を傾げつつも 頼もしい空気を纏う杏寿郎の言葉には何かちゃんとした理由があり、そしてそれに間違いはないと思って素直に首を縦に振る。
杏寿郎はその様子に微笑み 褒める様に撫でると、桜の額にキスを落としてからバスローブを取りにベッドを降りた。
そして帰り際にミニバーに寄るとつまみのスナックとビール、ウイスキーを片手に戻ってくる。
杏「リビングへ行って少しテレビでも見よう。日本酒は無かったが君はこういうのも飲めるか。」
桜はバスローブを渡されると礼を言ってから受け取り、袖に腕を通す。
「ウイスキーは飲んだことがないです。ビールは苦くてまだ飲めないです。なのでウイスキーに挑戦してみます。」
杏「日本酒は飲めるのにビールの旨さはまだ分からないのか。不思議だな。」
そう言いながら杏寿郎に手を差し伸べられると桜は迷わず手を重ね、ベッドを降りた。