第89章 ※漸く訪れた一夜
杏「……ッ!!」
杏寿郎は顔を桜の首元に隠すように埋めながら達すると、全ての欲を出し切るように体を震わせながら桜の首を噛んだ。
そして出し切ると止めていた息を吐いて桜の上に体重を掛けないように気を付けながら倒れ込む。
杏(結局いつも通り3度とも全て同じ愛し方で事に及んでしまった。)
しかし桜はそんな反省をする杏寿郎を緩く抱き締め、満足気に頭に頬を擦りつけてくる。
杏寿郎は腕に力を入れて体を上げると桜の様子を見下ろした。
桜の意識は割としっかりしているようで、杏寿郎ときちんと視線を合わせて幸せそうに微笑んでいる。
杏「満足出来たか。結局いつもと同じ愛し方になってしまっただろう。」
「同じだろうとなんだろうと、とっても幸せです。」
そう言うと桜は微笑んだまま杏寿郎に両手を差し伸べて抱擁を求めた。
杏寿郎は安心したように微笑み返すと2人の上体を起こし、桜をきつく抱き締めた。
ベッドの上で向かい合うように座り、2人は暫く無言で互いの頭や胸に頬擦りをしたり抱き締め合ったりした。
そうしているうちに杏寿郎の右手は桜の左手の薬指へと伸びる。
「とても気に入っています。」
杏「それは良かった。ひと目見て君らしいと思ったんだ。そういえば婚約指輪らしい婚約指輪は初めて贈ったな。昔は初めから揃いのものだったろう。」
「ふふ、そうでしたね。」
桜はそう言いながら自身の左手に視線を遣る。
その左手は杏寿郎の右手に優しく包まれていて指輪は見えなかった。