第89章 ※漸く訪れた一夜
杏「む、またか。今日は随分と早いな。愛らしいぞ。良い子だ。」
杏寿郎は息を乱して快感から涙を溢す桜を褒めるように撫でた。
そうして撫でながらもズロズロッと自身を抜いて再び重く強い一突きを与える。
「……ッ!!!」
桜が声にならない悲鳴を上げている間にそれはどんどん速くなる。
そうして "いつも通り" の酷く激しく重たい杏寿郎好みのセックスが始まった。
荒々しい腰つきに反して杏寿郎の声や掛ける言葉は甘く、優しく、手は桜をずっと愛おしそうに、そして褒めるように撫で続けている。
それによって桜の頭もどんどん蕩けていった。
杏「ああ、愛らしいな。こんな体にされても俺を信じきっているのだから堪らない。」
この桜の思考が働いていない時だけは杏寿郎は自身の少し歪んだ愛を口にする事が出来た。
しかし無意識下では聞いているようで頼めばしてくれる事もあった。
杏「もっと泣いてくれ。君の泣き顔を見たい。」
熱い息を漏らしながらそう良い、何度も乞うように口付けをすると桜の眉尻は下げり、涙はじわりと量を増す。
そうする事により元々扇情的だった表情はより杏寿郎好みのものへと変わるのだった。
杏「本当に堪らない。良い子だ。桜は良い子だな。」
そうして当事者である桜の知らないところで杏寿郎は杏寿郎の愛し方をしていたのであった。
(杏寿郎さん、また……褒めてくれてる。優しい声が聞こえる。)
一方、頭がよく回っていない桜はひたすら杏寿郎の優しい声色に安心し、身を委ねていた。
強くされる事による大きな刺激は全て快感に変わった。
そして桜ももうこの激しい愛し方でなくては物足りないと思うに至っていた。
(杏寿郎さんが彼氏で……婚約者で、よかった……。)
そうして少し歪んだ部分に気が付けないまま桜は杏寿郎に心酔していったのだった。