第16章 目覚めた女と諦めない男
桜は杏寿郎より先に寝られず、杏寿郎が置いてくれた桶で水を飲む練習をしていた。
そこへすぐに浴衣へ着替えた杏寿郎が台所へ戻ってくる。
その髪は何故か濡れていた。
「あれ…?杏寿郎さん、お風呂に入ったんですか…?」
(流石にもうお湯は冷めてたと思うけど…。)
杏「ああ!この時期の水風呂は堪えるな!!」
そう言う顔はいつもの笑みだが、体はガタガタと震えている。
「え!!な、何考えてるんですか!! !」
あわあわとしている桜の目の前で杏寿郎は美味しそうに水を飲む。
(そんな…ほかほかに温まった体で飲んでるみたいに…。)
そしてあっと言う間に水を飲み干すと桜をひょいと担ぎ上げた。
杏「心配いらない!桜が居るのですぐ温まる!」
桜はまだ心配そうに尻尾を揺らしながらも、杏寿郎が与えてくれるぽかぽかとした心地良さを思い出していた。
千寿郎が敷いてくれていた布団に桜を下ろすと、杏寿郎は髪をわしゃわしゃと拭く。
(この垂れた前髪を近くで見れる特権も…猫だから……。)
さっきから胸の温度が不安定でユキが心配しているのを感じる。
(ごめん…ユキ…でも本当に大丈夫だよ……。)
そう謝りながら、桜は杏寿郎より先に寝ないように立ち上がった。
杏「む?待ってくれているのか?」
杏寿郎は首を傾げて布団に近付く。
「はい…早く寝ましょう……。」
桜はうつらうつらしながらも何とか耐える。
その様子に笑みを漏らすと杏寿郎は桜の頭を撫で、部屋の様子が分かる程度に小さい照明を残してそれ以外を消した。