第16章 目覚めた女と諦めない男
杏「桜は二十年も生きているのか…?今の姿になる前は普通の猫だった筈だろう。随分と高齢なのだな。」
「…あっ!」
(そうだ…この流れ…人だって言うチャンスなんじゃ……?)
「…あのっ!…実は私……私、は……………っ……、」
(…あれ…?…何で………何で私…、言いたくないって思ってるの……?)
「……………。」
困惑した様子で俯いてしまった桜を見て、杏寿郎は眉尻を下げる。
杏「どうした?」
「あ!えっと…………、」
(…い、いま……杏寿郎さんに "私は人です" って言っても、この人の前では人に戻れない…)
(……それなのに、言ったら……?…一緒に寝ることはなくなる。それは…助かる事?…それとも………、)
(……………寂しい事……?)
桜は自分の考えを自覚すると、恥ずかしくて ボッと顔が熱くなるのを感じた。
杏「桜?」
声をかけられ大きく体が跳ねる。
「ふあっ!…は、はぃ……。」
杏寿郎はまた眉尻を下げると食べ終わった食器を下げた。
杏「言えない事か?」
その言葉にまた俯く。
(実は私、杏寿郎さんと一緒に寝たいが為に猫のふりを貫こうとしている人間です……なんて………、)
杏寿郎はその様子を大きな目で興味深そうに見ていたが、フッと表情を柔らかくすると桜の頭を優しくぽんっと撫でた。
杏「言えるようになったら言ってくれ!」
さっぱりとそう言ってその話題を終わらせた杏寿郎は "寝る支度をしてくる!" と、台所を出て行った。
「…私の隠し事はいつもすぐ分かられてしまう…早く自分から伝えないと……。」
一人残された桜は小さく呟くと再び俯いた。