第88章 関係の名称
先程も良い返事を貰った筈の杏寿郎は再び嬉しそうな顔をすると、普段は持たない鞄から指輪の箱を取り出す。
そして普通のダイヤに加え、ピンクダイヤも散っている可愛らしい色合いの指輪を桜の薬指にゆっくりと通していった。
それを見て桜はまた温かい涙を溢してしまった。
杏「うむ。やはり似合うな。」
杏寿郎は細い指に嵌った指輪を見つめながらそう満足そうに言い、『平和な世で刀を持たずに見たい』と言った淡く光る蛍の側で桜に優しく何度も何度もキスをしたのだった。
「まさか同じ方と3回も婚約するとは思いませんでした。」
杏「頼む。クワガタに関しては子供に言わないでくれ。」
「可愛らしいのに……。」
そんな会話をしながらクリスマスらしからぬ温かいドーム内を散策し終えると、杏寿郎は再び桜の手を引いて電車に乗った。
(あれ……?帰る方向じゃない。それに温室には駐車場があった。車で来なかった理由はこの後の予定に関係が…?それともお酒を飲むからかな…?)
電車が揺れる度に桜は杏寿郎にしがみつく。
杏寿郎が『そうすると良い』と教えたからだ。
「杏寿郎さん、まるで電車に刺さってるかのように動きませんね。」
杏「君はおかしな事を言うな。」
そう言って微笑む杏寿郎の表情はひたすら柔らかい。
「……そういえば今日は鞄持っているんですね。指輪の為ですか?いつもはお財布とスマホだけなのに。」
杏「いや、これは……、」
そこまで言って杏寿郎は言葉を切った。
杏「すぐに分かる。ほら、この駅だぞ。今日の宿泊先、また連れて来ると言ったもう1つの "約束" だ。」