第88章 関係の名称
杏「……少し笑い過ぎではないか。」
「だって……ここ、カブトムシとクワガタのコーナーなんですもん。なんだか面白くなっちゃって……、」
そう言われて周りを見渡してみると確かに其処はムードの欠片もなかった。
杏「散々調べた結果こうなるとは…よもやよもやだ。」
「子供とここへ来た時、お父さんのおもしろエピソードとして教えなきゃですね。」
杏「そこは蛍の前でしたと言ってくれないか。ほら、今から行くのでどうか勘弁してくれ。」
桜は涙を拭って笑いながら手を引かれ、蛍のコーナーまで歩いた。
「わ、あ……。」
薄暗い一画のガラスの向こう、決して大きくはない部屋の中に淡い光が点滅している。
「…………綺麗。」
杏「桜、結婚してくれ。」
「え!だめですよ、さっきのプロポーズをなかった事にしないでください!」
そう言われると杏寿郎は眉尻を下げてしょんぼりとした。
その表情に弱い桜は慌てて謝るように杏寿郎の両手を握る。
「そんな顔しないでください!では…もう一度だけですよ。」
そう言うと杏寿郎はパッと凛々しい笑みを取り戻した。
杏「俺と結婚してくれ。一生を懸けて大事にする。幸せにすると誓う。」
桜は増えた言葉と落ち着いた声色から、先程の杏寿郎は本当に気が昂っていたのだと再確認した。
そして柔らかく、幸せそうに微笑む。
「こんな私で良ければ…どうぞ貰ってやってください。」