第88章 関係の名称
桜が悩んでいるうちにも杏寿郎は温室に入ってずんずんと前へ進んでいく。
すると桜はその温室の展示が植物ではなく昆虫を対象としていることに気が付き、ハッとした。
「蛍!!」
杏「正解だ!!!夏は忙しくて見に行けなかったからな!!冬でも見られる場所があると知った時は嬉しかった!!」
そう言いながらも杏寿郎の進むスピードは速まる。
杏「そして予想通りこの時間は家族連れが居ない!!そしてクリスマスに虫を見せに来る彼氏も俺だけのようだ!!!」
それを聞くと "2人きり" の条件を満たす事に気が付いた桜は胸を高鳴らせて押し黙った。
杏寿郎は振り返って桜の表情を見るとその沈黙が好ましい反応だと確信し嬉しそうに口角を上げた。
杏「すまないッ!!気持ちが昂ってしまった!!まだ蛍まで辿り着いていないが言わせてくれ!!!」
「えっ!?それは…、」
桜は『この日まで我慢したのなら蛍の前まで行った方が杏寿郎が報われるのでは』と思ったが、両肩を掴まれ大好きな燃える瞳に見つめられると何も言えなくなってしまった。
杏「桜、結婚してくれ。」
それは最もシンプルで桜が焦がれた言葉だった。
「ふふ、……はい…、勿論です。」
杏寿郎は返事がOKだという事は分かっていたが、桜の嬉しそうな泣き顔を見ると堪らず抱き寄せ、『ありがとう。』と言ってから暫くの間ぎゅーっときつく抱き締めた。
その間、桜はずっとくすくすと笑っていた。