第88章 関係の名称
杏「そうか。良かった。」
杏(暖かかったら友人と出掛けていたかもしれないな。これからは用心しなくては。)
そう思いながら杏寿郎はスマホを手に取り、桜の頭に顎を乗せながら桜に見えない高さで弄りだした。
その画面に映っているのは淡い黄緑色の光。
杏(桜は覚えてくれているだろうか。)
そしてクリスマスイブ当日―――、
杏寿郎と桜は暫く家でゆっくりと過ごし、夕方になってから家を出た。
「ふふ、どこへ行くのか知らないのもわくわくします。」
桜は真っ白なコートに真っ白なマフラーをし、真っ白なブーツを履いている。
暗めな色のアウターが多い中、桜の姿とその笑顔は街中で非常に目立っていた。
杏「冬の妖精のようだな。もっと寄って歩いてくれ。」
桜を隠さなくなった杏寿郎はその代わりに桜を見れば自身が目に入るように気を配り、嫌な視線には重い殺気を放っていた。
しかし、杏寿郎は杏寿郎で非常に目立つ。
何を着ていてもその瞳と髪色は人目を引くし、一度見れば目が離せなくなる程に顔も整っている。
そんな視線に気が付くと、桜もそれを遮るように女性と杏寿郎の間に割って入った。
杏「こら。愛らしいがあまりぴょこぴょこと跳ね回らないでくれ。」
「ち…違います…っ!杏寿郎さんに見惚れる女性を牽制しているんです!杏寿郎さん目立ちすぎです…!」
杏「そんなものは放って置いて良い。大人しく隣にいなさい。」
「…う………。」
優しく諭されるように言われると桜は赤くなって俯き、杏寿郎に言われた通りきちんと隣に並んで歩いた。