第88章 関係の名称
杏「あの男が逮捕されてからずっと君にプロポーズをする事ばかり考えていた。すぐにでもしたかったのだが判決が出るまでは避けるべきだと思って待った。だが今度は日にちにも拘った方が良いのではと思うようになった。」
桜の口が薄く開く。
杏「加えて女性がどういったシチュエーション、演出を好むのかについても調べているうちにサイトによって違うことが書かれていた為、今はどれが良いのかサイトを虱潰しに調べて統計を取っているところだ。」
「………………プロポーズ…の、統計…。」
杏「そうだ。」
それを聞くと桜は珍しく職場だというのに自ら杏寿郎の胸にくっついて顔を埋めた。
杏寿郎は久し振りの桜の甘えたな仕草に驚きつつもすぐに抱き締めた。
「私、冨岡先生に『関係性を変えたい』って言ったんです。それが多分、恋人から他人へと勘違いされたのでしょうが、早くただの恋人から……婚約者になりたかったんです。……私、シチュエーションはこだわらないですよ。だから……杏寿郎さん…、」
杏「流石に今は駄目だ!こだわりが無いにも程があるぞ!!中にはテーマパークと結託して申し入れをし、他の客にも祝ってもらうという猛者もいると言うのに!!」
「え"っ、それは嫌です。恥ずかしい…。」
杏「うむ、やはり桜に刺さるプロポーズはそういった類では無いのだな。では他のものにしよう。」
「ま、待って!変に知識を付けた杏寿郎さん怖いです!確かに大人っぽくはなったけどコンロで焚き火する程度のズレは持っているもの…!」
桜が思わずそう口にすると杏寿郎はあからさまに眉を顰めた。
杏「君に寂しい思いをさせている間 無駄に過ごしていた訳ではない。それにこれだけ一緒に居れば君が恥を覚えるものがどういったものなのかも分かる。今のように2人きりの時にすれば問題は無いだろう。」
「は、はい…2人きりだととても嬉しいです…。」
桜はもう今しても同じなのではと思いつつも杏寿郎が随分と前から考えてくれていたのだと知り、再び胸に顔を埋めるとそこに頬擦りをした。
杏寿郎もそれを見て嬉しそうに微笑んだ。