第88章 関係の名称
杏「………………本当なのか。何故真っ先に俺に言わないんだ。先程の男とは仲が良いのか。」
「そんなの…杏寿郎さんだからこそに決まってます…。さっき…?さっきは共通の話題で盛り上がってただけです。」
杏「当事者だろう。言わなくてどうする。溜め込んだ後にいきなり別れを切り出されても俺は認めないぞ。」
その言葉に桜はきょとんとする。
「……切り出しませんよ。別れるつもりはさらさらないです。冨岡さんが何か誤解をしたのでしょう。…さっきのもそれで嫉妬を……?私は杏寿郎さんしか見ていませんよ。」
そのきっぱりとした言葉に杏寿郎は張り詰めていた空気をふっと解いた。
そして片手で両目を覆い、溜息をつく。
杏「そうか。すまなかった。先程の彼にも謝らなければな。何について話していたんだ。」
そう問う杏寿郎の声にはもう嫉妬の色は無く、桜は柔らかく微笑んだ。
「カナヲちゃんの担任の先生だったので様子を聞いていたんです。たまにカナヲちゃんも私についてあの先生に訊いてくれるようで時々やり取りをしているんです。可愛いでしょう?」
そう言って見せる微笑みは先程と同じ緩んだものであった。
杏寿郎はそれを見て心底ほっとしながら桜の頬を撫でて微笑んだ。
一方 桜は内心首を傾げていた。
(杏寿郎さんに余裕がない…。何で……?)
その気持ちが顔に出ていた為、潮時だと思った杏寿郎は桜の両手をしっかりと握って視線を合わせた。
杏「どうもサプライズといったものに向いていないようだ。このまま何度も君を寂しくさせたり、不安にさせてしまうくらいなら、もういっその事 俺の考えを吐露しよう。」
ずっともやもやとしていた桜はいきなりその答えが迫ってきたことに驚き、喉をこくりと鳴らしながらも慌てて頷いた。
杏寿郎は相変わらず真剣な瞳でその様子をじっと見ていた。