第88章 関係の名称
―――
その日の昼休み、杏寿郎がいつも通り生徒達の元へ向かおうとすると義勇が呼び止めた。
義「煉獄。一ノ瀬がお前と別れたがっているぞ。最近お前が何を考えているか分からない、辛い、と言っていた。それから自身はまだ若いとも。」
その言葉に目を見開くとバッと桜の方を向く。
すると暫く自身には見せていない緩んだ笑みを、あろう事か歳の近い同僚に向けていた。
杏(まだ若い……?マリッジブルーというやつだろうか。いや、俺達は婚約もしていない。それにしてもあの笑顔は何だ。最近俺には甘えてくれなくなったというのに…、)
気が付いたら杏寿郎は桜とその男の前に立っていた。
同僚は杏寿郎の眼力に急いで去っていく。
「あ……!」
桜が自身を置いてその同僚を追いかけようとすると、杏寿郎は険しい顔付きで桜の手を掴んで引き留めた。
「……しょ、職場です。」
杏「ああ。場所を変えよう。」
桜は手を強く引かれながら眉尻を下げた。
(何だろう…手、ちょっと痛い…。)
杏「此処で良いだろう。」
杏寿郎はそう言って空き教室に桜を入れる。
そして掴んでいた手にギリッと力を込めると眉を顰めた。
杏「冨岡に聞いた。」
「…あ………。」
桜がハッとしてから気まずそうな表情を浮かべて俯くと、杏寿郎は呆気に取られて思わず手首を放してしまった。