第88章 関係の名称
(昔は恋仲になれてすぐに…間髪入れず婚約を迫られた。でも今回は……もう事件も一段落ついているのに何にもない。杏寿郎さん、いま何を考えているんだろう。)
そんな事を思って職員室で溜息をついていると側を通り掛かった義勇が珍しく話し掛けてきた。
義「悩みごとか。」
「あ………はい。ちょっと、私生活のことで…。」
それは『プライベートの事だから相談に乗らなくて大丈夫です。』という意味だったが、義勇は桜の隣の席に座ると話をして欲しそうに見つめてくる。
桜はそれに困った様な笑みを返したが、孤独な義勇なら外に漏らすことが無さそうだと判断すると心の内を吐き出し始めた。
「知ってらっしゃると思いますが恋人がいまして、その人の気持ちが分からないんです。信頼してるし心変わりとかの心配は全くしていないのですが、純粋に本当に何を考えているのか分からなくて……。」
義「煉獄だろう。分かり易いように思えるが。」
「私も昔はそう思っていたのですが…。」
義「それで一ノ瀬はどうしたいんだ。」
「関係性を………変えたいんです。」
それは恋人から抜け出したい、という意味であった。
義「そうか。」
義勇はそれに深刻そうな顔をして返事をする。
義「どうしてもか。」
「…………私はまだ若いですし、それが原因となっているのかもしれないです。それなら…待つしかないのですが、でも少し今の状況は辛いです。」
義「……そうか。」