第88章 関係の名称
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杏「桜!!帰っ…、」
急いで開けたドアの先には赤い顔で靴を履いたまま玄関に倒れ込んでいる桜が居た。
それを見た杏寿郎の心臓は嫌な音を立てて跳ねた。
杏「桜ッ!!!」
杏寿郎が腕の中に桜を抱くと、桜は目を開いてから『しまった。』という顔をした。
「…お帰りなさい。ちょっと…その、床が冷たくて気持ちが良くて…い、今ここにきたばかりで…、」
杏「もう16時だぞ。本当は何時から居た。」
「……………それは…その、分かりません…。でも、体が原因ではないので特に問題はないかと…。」
杏「体が……?」
そう言われて桜の横に散らばっていた冊子に目を遣る。
そして桜の熱の原因を悟ると顔を歪めながら靴を脱がせた。
杏「そうか。そうだな、君がストレスを抱え込んでいない筈が無かった。俺の責任だ。」
「ち、違います…!杏寿郎さんは何も悪くありません…!!」
杏寿郎は桜の必死な言葉を聞き入れなかった。
ただ黙って桜を横抱きにしたまま寝室へ向かい、固く絞ったタオルで体を拭ってから再びパジャマを着せた。
杏「君……、緊急外来を使ったろう。コートのポケットに入っていたタクシーのレシートを見たぞ。まだ普通の病院は開いていない時間だった。本当は39℃を超えていたのだな。」
「…………………あ…の………、」
杏「そのような状態の君に付き添いをするなと言う人間は駒校には居ないぞ。何故嘘をついた。」
「最初は……本当に38度だと思ってて……、」
杏「途中からは分かっていたのだな。」
「……それは…………その、」
杏寿郎は言い淀む桜に溜息をつくと再び体温計を桜の脇に差し込み、今度はしっかりと固定した。