第88章 関係の名称
桜は杏寿郎がベッドの上に用意してくれたコートを羽織って立ち上がろうとした。
しかし思った以上に平衡感覚が損なわれており、その場に倒れ込んでしまった。
(絶対に杏寿郎さんには分かられたくない。無駄な心配だけは…、)
桜はその一心で立ち上がり、何度か転倒しつつもタクシーへ辿り着くと待たせてしまった運転手に謝りながら乗り込んだ。
病院へ着いた時には更に3分上がっており、すぐに医者の元へ通してもらえた。
「…………心因、性……?」
先「はい。その可能性がありますが何か私生活でストレスはありませんでしたか?」
そう問われると頭がぽーっとなってしまっている桜は素直に口を開いた。
「私を誘拐して目の前で弟を刺し殺したストーカーがまた私を誘拐したのですが、その人の判決がやっと下ったところです。」
先「…………そ、そうですか……。糸が切れて熱が出たのかも知れませんね…。心因性の熱には解熱剤が効きません。ですので…、」
桜は頭が回らないまま『自律訓練法』だとか『自律神経との付き合い方』などと書いてある冊子をいくつか貰うと病院にタクシーを呼んでもらって自宅へと帰った。
(なんとか帰れた…。これで杏寿郎さんに怒られない。)
そう思うと桜を立たせていた糸がぷつりと切れ、桜は玄関に倒れ込んでしまった。
起き上がろうとするも腕に力が入らない事を確認すると『薬が効かないのならここで試してみようかな…。』と小さく呟きながら貰った冊子を読み、本当は仰向けで行う副交感神経が優位となるプロセスを体を横向きにしたまま行った。
それは桜の体に蓄積されたストレスを緩和させたが同時に眠気も誘った。
そしてあろう事か玄関で寝てしまったのだった。