第88章 関係の名称
「何度も振り返らないで早く行ってください。それとも玄関までお見送りした方が良いですか?」
杏「……駄目に決まっているだろう。」
杏寿郎はそう言うと漸く寝室のドアを開けて1歩外に出て、再び桜を振り返った。
杏「やはり1人では、」
「杏寿郎さん。」
桜の厳しい声色に杏寿郎は叱られた大型犬のような顔をしながら『行ってくる。』と呟いた。
暫くして漸く玄関のドアが閉まる音がすると桜は安堵の息をつき、杏寿郎が枕元に置いていってくれたスポーツドリンクを手に取る。
そして少し飲んだ後、体温計を今度は "きちんと" 脇に挟んだ。
―――ピピピッ
「やっぱり…感覚的にそうだと途中から分かっていたけれど……。」
表示された熱は39.3℃。
本来なら緊急外来を頼って良い熱だ。
それでも桜は "ただの恋人" である杏寿郎の仕事の邪魔をする事に抵抗を感じていたのだ。
(タクシーを使えば1人でも行ける。絶対に杏寿郎さんにばれないように気を付けないと…。)
桜はそう思うと悪化する前に行ってしまおうとスマホで緊急外来をしている病院とタクシーについて調べようとした。
しかし焦点が上手く定まらず、視界がぼやけてしまう。
それでも時間を掛けてなんとか情報を得ると、自力でタクシーを呼んだのだった。