第88章 関係の名称
杏「君は嘘が上手になったようだ。だが顔に出ていなくともそれが嘘だという事くらいは分かるぞ。」
「上手になっていませんし、嘘じゃないです…!」
桜に言われて調べると、確かに桜の体温は緊急外来を利用するには不適切な熱であった。
それを知った杏寿郎は漸く折れ、寝ている桜を見つめて眉を顰めながら残りのご飯を食べた。
「ふふ、杏寿郎さんがそんな顔でご飯を食べるところを初めて見ました。」
杏「当たり前だろう。第一何故ソファで寝ていたんだ。」
そう厳しい声色で問われると桜は少し怯む。
しかし昨夜の事を思い出すと少し眉を寄せて拗ねた声色を出した。
「杏寿郎さんが構ってくれなくて寂しくて…同じ寂しいなら1人の方がましだと思ったんです。寝るつもりまでは無かったのですが…。」
杏「俺が君を構わなかった…?」
桜の事を疎かにしていた自覚がなかった杏寿郎は、眉を寄せながら昨夜の事を思い出そうとした。
そしてある心当たりから桜のドレッサーの方を向いて服を脱ぐ。
そこには寂しさを訴える歯型がたくさん残されていた。
「あ……それは…、」
それを改めて確認されるとは思っていなかった桜は、焦ったように上体を起こした。
杏寿郎はそんな桜を慌てて寝かせ、服を着ると申し訳なさそうに眉尻を下げながら桜の頭を撫でた。
杏「すまない。噛まれた記憶はあったがここまでアピールされているとは気付いていなかった。二度としないので君もベッドから出ないでくれ。」
「…………はい。」
返事をした桜は安心したような穏やかな顔をしていた。
そうこうしている間にあっと言う間に出勤の時間となり、杏寿郎は桜に『緊急でもないのだから付き添いは不要です。』『病院が開く時間になったら1人で行きます。』ときっぱり言われると、帽子を被って行くこと、少しでも悪化すれば連絡することを約束させたのだった。