第88章 関係の名称
杏寿郎は弱った顔をしたが、すぐに切り替えると『行儀が悪いが許して欲しい!』と言ってから寝室でパンを食べ始めた。
それによって腹の音が鳴り止むと桜は心底ほっとしたような表情を浮かべる。
その表情を見て杏寿郎は不思議そうに少し首を傾げた。
「杏寿郎さんの姿が1番の薬になりそうです。」
杏「駄目だぞ。このパンを食べきったら、」
「全部食べてください。」
杏「君が熱を出している時にそんなに喉を通る筈がないだろう!!」
「このくらいの熱なら何度か出た事があります。大したことないです。それより心労の方が問題なんです。杏寿郎さんのお腹が満たされないと私はとっても辛くてたまりません。」
杏「…………むぅ……。」
杏寿郎は眉尻を下げてとても苦しそうな顔をしながら次のパンの袋を開けた。
杏「君が食べると思って本当にたくさん買ってしまった。買う前に気が付かないとは不甲斐ない。」
「私がそうしたんです。杏寿郎さんは悪くありません。どんどん食べてください。本来なら私が朝ご飯を作るはずで、」
杏「君がそうすべきと言う決まりはない。勿論大変美味いので楽しみにはしているが 体調が悪い時に作られては俺が苦しい。」
「私も杏寿郎さんのお腹がなっていると心苦しいです。」
こんな時にも相手を思い遣っての言い合いに発展すると両者は譲らない。
しかし、譲りはしなかったものの杏寿郎はすぐに状況を思い出して休戦を求めた。
杏「今は間を取って4分の1を食べよう。全部は流石に無理だ。」
「間を取っていません。せめて半分は食べてください。」
杏「頼む、折れてくれ。早く君を病院へ連れて行かなければならないんだ。半分も呑気に食べていられない。」
「杏寿郎さん、この程度の熱で緊急外来に行っては呆れられてしまいます。」
病気知らずの杏寿郎はその話を信じられなかった。