第88章 関係の名称
(この感じ…確かに高い熱が出てる。でも38度は緊急外来に行くほどじゃない…それより杏寿郎さんに何か食べてもらわないと……。)
桜は自身を横抱きにして颯爽と寝室を出た杏寿郎の胸を手のひらでぱたぱたと叩いた。
すると杏寿郎はバッと桜を見下ろす。
杏「どうした。」
「あの…、その…………お腹空いて死んでしまいそうです。」
桜が『死んでしまいそう』と言うと杏寿郎はぎょっとした顔をしてから桜をベッドに戻した。
そして心配そうに頭を撫でながら顔を覗き込む。
杏「コンビニで何か買ってくる!すぐに戻るので絶対に此処から出てはならないぞ!!」
「ま、まって……、ゼリーと、あと他にもたくさん…杏寿郎さんから見ても美味しそうだなって思うものをたくさん買ってきてください。たっくさん食べたいんです。」
杏「分かった!!!」
冷静な思考を欠いた杏寿郎は快諾するとすぐに家を出て行った。
(……ちゃんとエレベーター使ったかな…。)
桜は杏寿郎が階段もエレベーターも使わずに呼吸を使って飛び降りたのではと心配になったが、言い付け通りベッドの中で大人しく待つ事にした。
杏寿郎はあっと言う間に帰ってきた。
両手には大きな袋が4つもある。
桜はゼリーを貰って腹に入れると先程断った市販薬を飲み、後は杏寿郎に『食べて欲しい』と頼んだ。
それを聞いて桜が初めからそのつもりであった事を漸く悟った杏寿郎は眉を寄せた。
杏「俺は自身の食べ物を買いに行く為に君の元を離れたのか。」
「杏寿郎さんのお腹の音を聞くと胸が痛いんです。食べてください。胸が痛くて死んじゃいそうです。」
杏「『死んじゃいそう』だと言えば俺が言う事を聞くと思っていないか。」
「本当だもの…。杏寿郎さんが食べないならベッドから出たくありません。」
桜はそう言うと掛け布団を掴んで目元まで掛けてしまった。