第88章 関係の名称
杏「……桜?」
暫らく経っても桜が帰ってこない事を不審に思った杏寿郎はリビングを出てトイレに向かった。
しかし遠慮気味にノックしてみるも返事がない。
よく見れば電気も点いていない。
バッと戸を開けてそこが無人であると確認すると、次に玄関へと向かった。
そこにある桜の靴が減っていないのを見て杏寿郎は大きく息をついた。
杏(……もう夜に1人で外に出る筈はないと分かってはいるが一瞬肝が冷えたな。)
そう思いながら大股の早足でリビングに戻ると今度はすぐにソファで猫のように眠る桜を見付けた。
ブランケットを被っているとはいえ、その季節には頼りないそれは桜の熱を十分に保ってくれてはいなかった。
杏(冷たい。ベッドを抜け出て此処で寝てはならないと言った筈だ。何故……、)
杏寿郎は冷えた桜を抱き上げると眉を顰めながらベッドへと向かう。
杏(今はとにかくすぐ温めて…、明日は朝から説教をしなければならないな。)
小さく震えていた桜は杏寿郎の熱ですぐに温まると何とも穏やかな寝顔ですぅすぅと小さな寝息を立て始めた。
それを見て杏寿郎は漸く息をつき、再び桜の行動の元凶であったスマホを手に取る。
そしてそれからまた暫くプロポーズについて調べたのだった。