第87章 穏やかな生活
杏「今回の話が随分と流されてしまったな。」
「はい…。」
2人の視線の先で、誘拐された後に槇寿郎の尻拭いをして桜を助けたのが杏寿郎だと知った瑠火は槇寿郎を叱り続けている。
そして両家への報告は殆ど叱られる事なく終わり、杏寿郎と桜は敢えて長居せずに自分達の家へと帰ったのだった。
―――バタンッ
やっと聞くことの出来たドアの音に心底ほっとすると、桜はその場所が自身にとってきちんと "家" となっている事を再認識した。
「ただいま帰りました。」
杏「うむ。盛り沢山の夜に加えて一晩別で過ごしたとなると久しぶりのように感じるな。」
「はい…。」
杏寿郎達は手洗いうがいを済ませると手を繋ぎながらリビングへ進み、ソファへ座った。
杏寿郎の足の間に収まった桜も、そうさせた杏寿郎も互いに何も言わず、杏寿郎は桜をきつく抱き締めて桜はその腕をきゅっと掴んでいた。
杏寿郎は暫くしてからそんな沙織の手を大事そうに握るとやっと口を開いた。
杏「…君から写真についてメッセージを貰って細田が犯人なのだと気が付いた。そこから何かを盛られた事に気が付いて早く目覚められるように呼吸を変えたんだ。起きてからすぐ細田に対応出来たのも緊急事態に陥っていると知れていたからだろう。」
「そうだったんですか…。蜜璃ちゃんにお礼を言わなきゃ…。彼女なんです、写真に気が付いたのは。」
杏寿郎は『そうか。』と言うと桜を半回転させ、向き合う形で自身の太腿に跨らせる。
桜は顔の近さに頬を染めた。