第87章 穏やかな生活
するとそれが耳に入った桜は目立ってしまった事への溜息をつき、杏寿郎は額に青筋を浮かべた。
そして、呆気無く桜の横に座った。
「……………え……?」
杏「貶されるとは思わなかった。すまない。」
そう言われ、更に静かになった向かいに目を遣ると男達は桜を見て目を丸くしている。
男「あれってミスキャンパスのニュースになった桜ちゃんじゃ、」
男はそう言い掛けて口を噤んだ。
下の名を呼んだ途端に隣の杏寿郎が燃えるような瞳で睨んだからだ。
「杏寿郎さん。どうしたのですか。」
杏寿郎の険しい顔と向かいの引き攣った顔をしている男を見比べて桜が戸惑っていると乗換駅に着く。
すると杏寿郎はパッと桜の手を握って男達側のドアへと近付いた。
その際、酷く低い唸るような声を出す。
杏「貶しておいて気易く呼ぶな。」
その頭が揺れるような声に男達は震えながら頷いた。
「何かしましたよね。」
急にすっきりした様な表情に変わった杏寿郎を見上げて桜は眉を寄せながら背伸びをした。
すると杏寿郎は桜の肩を掴んでそれを止めさせた。
杏「頼むから人の多い場所でそういった仕草は控えてくれ。」
「そういった仕草って…。杏寿郎さん、私…自由に歩いて動けるようになりたいです…。」
桜がそう悲しそうな声を出して泣きそうな顔をすると、慌てた杏寿郎は『分かった!今日だけは俺がなんとかしよう!!』と、いとも簡単に折れた。
それから杏寿郎は殺気を振りまいて煉獄家へと向かったのだった。