第16章 目覚めた女と諦めない男
手形の消えた軽い足で家路に急ぐ杏寿郎は、桜の事を考えていた。
杏(あの力…ユキは代償を知らないのだろう。いや、知っていて桜に隠している可能性もあるな。)
杏(いずれにせよ桜はだいぶ過保護に守られている。何であれ無理な治療は有限の筈だ。現状ではあまり頼りにしすぎるのも問題かもしれん。それと……、)
杏寿郎は自身の胸をちらっと見る。
(あの白石…ユキの姿を思わせる真っ白な石。何故あれはあんなにも冷たかったのだ。)
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夜が更け、静まり返った屋敷の一室で、猫の姿の桜は眠気と戦っていた。
(寝たら駄目…人に戻っちゃう…!湯たんぽ取りに軽い気持ちで杏寿郎さんがこの部屋に入ってきたら、隠し事をしてた事が分かられてしまう…。)
(ちゃんと自分の口で説明してからじゃないと…。)
ゆらゆらと体を揺らしながらも何とか座っていると、
―――ガララッ
玄関の戸が開く音がした。
「…っ!!!!」
その音を聞き、なるべく静かに廊下を走る。