第87章 穏やかな生活
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勇「桜のベッドはシングルなので他の部屋で布団を敷いてくれ。」
そう言い放つ勇之の笑顔は眩しい。
対して桜は寂しそうな顔をした。
「こんな事があった夜なのに1人で寝ないといけないの…?」
勇「…ぐ。……じゃ、じゃあお母さんとお父さんのベッドで、」
由「3人は狭くて無理よ。お布団2組敷いて桜の部屋で寝ればいいじゃない。同棲していたんだからもう今更よねえ。」
その言葉に桜は分かり易く顔色を明るくさせる。
すると勇之は折れてそれを認め、とぼとぼと寝室へ向かってしまった。
勇之と由梨の部屋は1階、桜の部屋は2階にある。
セックスを良い物、尊い愛情表現、恥ずべきではない事だと教えた桜から『不安をたくさん感じた今夜は絶対に愛してもらえる』という気持ちが伝わってくると、杏寿郎は自身の教えを初めて悔いた。
杏(ゴムは持ち歩いているがさすがにご実家では駄目だ。)
ずっとスーツだった杏寿郎は今、勇之の甚平を借りている。
少し浴衣に近付いたその格好でベッドではなく布団に入った杏寿郎を見ると桜は大正時代を思い出して頬を染めた。
杏「……桜、すまないが今夜は駄目だ。ご実家では出来ない。言いそびれたが声を聞かせてはならない相手もいるんだ。ご両親はその代表だ。」
「え………、そんな……、」
そう言うと桜は隣の布団で泣きそうな顔をする。
それを見た杏寿郎は慌てて上体を起こし、身を乗り出すと優しく涙を拭った。