第86章 7年前のやり直し
杏「よもや。泣き顔は取っておいてほしかったのだがな。………特に君には見せたくなかったぞ、細田。」
大きな机に縛った杏寿郎が自身の足で立てるようになるなど想像もしていなかった細田は振り返った杏寿郎に睨まれると酷く動揺した。
無理もない。
細田は体格に恵まれていないのだ。
それでも引くに引けず再びナイフを振りかざすと杏寿郎に向ける。
杏寿郎はその行動に眉を寄せ、動かすことの出来る足で容易くナイフを蹴り落とすと遠くへ蹴り、迷わず顔にも蹴りを入れた。
かなり加減したがそれでも細田はよろよろとした後 尻餅をついてしまった。
杏「本当は弱い人間に暴力は振るいたくはないのだが君の場合 1発は入れないと止まってくれそうにないのでな。」
杏寿郎はそう言うと机がくっついた不格好な姿のまま細田に詰め寄る。
ワイヤーを無理に引き千切れば勢いのついたそれが桜に当たり怪我をさせてしまいそうだったからだ。
杏「桜に謝れ。君がした事は取り返しがつかない、殺された人は戻らない。みのる君だけではない。この子だって君の影に怯えて何年も帽子の下から見える狭い世界の中で生きてきた。」
そう言うと杏寿郎は視線を合わせるようにしゃがみ、それと同時に机は床にぶつかってガンッと大きな音を立てた。
その音に細田が肩を跳ねさせる。
その様子を怒りに燃える炎色の瞳が焼いてしまいそうな熱量を持って見据えていた。
杏「もう一度言う。桜に謝れ。」