第86章 7年前のやり直し
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「…………………………………………。」
先に目を覚ましたのは桜だった。
瞼を開くと眼前には忘れていた筈なのによく知る顔が視界いっぱいに迫っていた。
「…ッッ!!!」
―――ガンッ
桜は勢い良く後ろに下がり、後ろの壁に頭を打ち付けた。
それを見た細田は心配そうな顔をする。
細「大丈夫…?ここは前みたいに家じゃないから氷枕を持ってくることは出来ないんだよ。気を付けてね。」
「……家じゃ、ない…。」
桜はそう呟きながら漸く倉庫のような周りを見渡す。
するとある一点に桜の視線は釘付けになった。
(杏寿郎さん……。)
まだ寝ている杏寿郎は木製の2メートルはありそうな長い机に頑丈なとても太いワイヤーで何重にも縛られていた。
何故杏寿郎がそのような目に遭っているのか、目の前の男が何の為に連れてきたのか、桜はよく知っている。
犯人は杏寿郎には敵う筈がない細身の男であるのに、深く眠ってしまっている杏寿郎の姿を見た桜の冷や汗は止まらなかった。
「きょ、杏寿郎さん、起きて…っ!!」
細「…………俺を差し置いて男の名前を呼んだらどうするかは教えたよね。もう何度も、それも下の名を呼んだみたいだから煉獄は帰さないよ。…それより "お腹空いてない?" 」
その言葉を聞いて桜は急にえづきそうになる。
それはどこかで聞いた台詞だった。