第85章 不穏
杏「分かった。だが体調が変われば無理はしないでくれ。」
相変わらずな過保護ぶりに桜は眉尻を下げながら微笑み、エンジンをかけようとする杏寿郎の手を掴んで止めさせた。
「杏寿郎さん、本当にありがとうございました。お休みの日だったのに…杏寿郎さんこそ疲れたでしょう。」
それを聞くと杏寿郎は眉を寄せた。
杏「今の状況で付いていかなければ俺は今頃心労で倒れているぞ。それにどうして勘違いをしているのか分からないが全く疲れていない。構ってもらえない寂しさはあったが、子供が出来た時の予行演習だと思ったらなんとか耐えられたのでそれも良い発見だった。」
「そ、そうでしたか……。」
思わぬ返しに気圧され、桜は杏寿郎の手を離すと自身の太ももに視線を落とした。
杏寿郎は桜の頬がほんのり染まっている事を確認すると無理をさせないように頭をぽんぽんとだけ撫でてから車を出した。
杏(甘露寺の方も落ち着いたようだしこれで都合がつくな。10月、お父様と会う前に少しでも出来る事を進めておかなくては。)
そうして杏寿郎は漸く天元に連絡をし、細田から太田について聞き出す機会を得たのだった。
天「次の金曜な。」
杏「…うむ、ありがとう。」
週の真ん中である水曜、疲れ知らずの杏寿郎が元気の無い声を返すと天元は眉を顰めた。