第85章 不穏
生「先生……。」
「うん。私も評価されるって慣れないな。でも頑張って聞こう。」
隣にいた部員は頷くと桜の手を握った。
それを見て逆隣に居た生徒も桜の手を握る。
そして―――、
『駒場学院高等学校…、』
次に来ると分かっていたにも関わらずその名を聞くと桜の喉は緊張からきゅっと締まった。
『―――…、ゴールド金賞。』
1拍置いた後、桜は後ろの座席の生徒に勢い良く飛びつかれて我に返った。
「み、みんな…っ」
動揺している間に席が近い部員達が歓声を上げながら桜をもみくちゃにしようとした為、陸は急いで窘めた。
なんとかすぐに静かになるも今度は泣き出す生徒が続出し、桜の周りはすすり泣く声に包まれた。
桜は予想外の結果から大満足していたが、それでも自然と涙が溢れてきてしまい 近くの部員達と笑顔を見せ合いながらも暫くの間泣いてしまったのだった。
駒校の金は所謂 "ダメ金" というもので、金賞に選ばれはしたものの次の大会へは進めないというものだった。
陸「時間が圧倒的に足りないスタートだったのに先生が纏めて下さったから都大も突破できたんです。本当にありがとうございました。」
「ううん、元から上手だったよ。それに皆の頑張りが無かったら纏まるはずもない。本当頑張ったね。」
(駒校が古豪だからか偶然なのかは分からないけど上手い子が集まってた。私にもっと技量があれば全国まで連れていけたんだろうな…。)
そんな胸の内を知らない生徒達は嬉しくて堪らないらしく、バスへ移動する間に何度も桜に抱きついてよろけさせていた。
それが続いて陸が注意をしようとした時、再びよろめいた桜の体が宙へ浮いて生徒は桜を取り上げられた形となる。