第85章 不穏
「……皆分かってると思うけど周りの学校はとっても上手いです。それでも『このステージに立てました』っていう思い出を作りに来たわけじゃない事も分かってるよね。」
それに生徒達はほんの少しだけバラけた返事をする。
桜はその反応を見て痛いところを突かれた生徒が居たのだと察すると少し柔らかい表情を作った。
「守りに入りたくなる気持ちは分かるよ。でも怖がらずに全部を懸けて頑張っておいで。どんな結果でも私が一緒に受け止めるから今はただただ皆の全部をホールに響かせよう。」
生徒達はピリついた空気に不似合いな柔らかく優しい声に今度は完全に返事をし忘れる。
桜はそれに目を丸くさせた後、笑ってからパンッと手を叩いて再び引き締まった顔を作った。
「ホールに響かせましょう!!」
「「「はい!!!」」」
今度は元気に返ってきた声に桜が満足そうに笑うと生徒にも少し余裕が生まれる。
そして余裕と緊張感を良い塩梅で持ち合わせた生徒達は練習通りのベストと言える演奏をしたのだった。
(丁寧に出来る限りの演奏を出来た。皆の集中力も切れなかったし何よりとても気迫があった。それも伝わったと思う。)
それでも次のステージに進む事は叶わない事を誰もが分かっていた。
分かっていながらも、皆は受け取る他ない評価を充てがわれた座席で息を潜めながら待っていた。
"ゴールド金賞" が呼ばれる度、それまで礼儀正しくしていた他校の生徒達が思わず声を上げる。