第85章 不穏
杏(響凱先生はあまり積極的に生徒と話したがらないが 桜の話だと最近は随分と指導に参加するようになったとの事だったな。根が真面目な方なのだろう。宇髄から物書きの趣味もあると聞いた。)
杏「響凱先生、隣に座っても良いだろうか。」
読書好きである杏寿郎は許可を得てから隣に座ると響凱との共通の話題を探りながら話を始めた。
桜に気を遣ってバスでは距離を取ることにしたのだ。
(杏寿郎さん…ありがたい…。生徒達の前ではなるべく杏寿郎さんと仲良くしているように見せたくない。精神的に整えている子の邪魔をしてしまうかもしれないから…。)
バスの中では上手く演奏出来た時の録音を聴いてイメージを確立させようとしている生徒もいれば、耳栓とアイマスクをして完全に感覚を遮断している生徒もいる。
(大丈夫。皆頑張ってきたもの。)
バスはあっと言う間に府中へ着き、パッと切り替えた生徒達は再び運転手に礼を言うと楽器を運び出した。
落ち着いて欲しい時間は瞬く間に過ぎていく。
それに飲まれないよう皆踏んばっていた。
(精神的にも強くなったなあ…。だけど…、)
ネガティブな思考は持ち合わせていなかったが、客観的に聴いてみて他の高校のレベルはとても高かった。
(それでも私は私に出来ることを。)
演奏順が近付いてリハ室へ案内されると皆詰めていた息を吐き出すように楽器を鳴らした。
暫く指や唇を慣らさせると桜はパンパンと手を叩いた。