第85章 不穏
(でも杏寿郎さんが話せないのなら待つしか…。杏寿郎さんは本当に必要なら私に話すもの。今はまだ駄目なんだ。)
そんなもやもやとした気持ちを振り切って桜は部の指導に打ち込んだ。
そして私生活とは真逆に部の調子は上がっていき、見事に都大会を突破して9月の日曜にある東京支部大会への進出が決まったのだった。
そんな中、杏寿郎へのメッセージは夏休み中も、休みが明けてからも続いていた。
それの殆どは『桜を幸せにしたいから手を引け。』といった内容で、会話をしようとしても成り立たない。
また『もう少し離れろ、写真に入るな。』といった物もあった。
杏(写真を撮ろうとしているのは必ず土日だな。尾行されている気配は確かにあったが毎回とても探りづらい。随分と手慣れている。桜を尾行する事に慣れているのなら何故今まで誘拐しなかったんだ。)
確かに桜には人気のない時間帯に必ずボディーガードが付いていた。
だが太田はラガーマンだ。
杏(力尽くは嫌だというポリシーでもあるのだろうか。)
そう思いながら杏寿郎は真剣な顔でスマホを弄る。
「杏寿郎さん、お茶どうぞ。……最近、お風呂あがりにいつもスマホ見てますね。」
杏「ありがとう。うむ、そうだな。」
杏寿郎が説明しないのを見ると桜は引き下がって静かに向かいの席に座って焙じ茶を飲んだ。