第85章 不穏
目立ちたがらない桜は当然その日1日しか身に着けていない。
桜は首を横に振りながら眉尻を下げた。
「撮影の日だけです。衣装を持ち帰ってすらいません。」
杏「撮影したのは女性か。男のスタッフは居たのか。」
「大学の先輩です。皆女性でした。」
杏「となるとデータが漏れたか、貰ったか。年齢差を考えると貰ったという線は薄いように思えるが…。」
「それで…今日集まったんですね。」
楽しい同窓会だとばかり思っていた桜は車の中で見せた杏寿郎の微笑みの裏に隠されていた考えを知って呆然としてしまった。
それに気が付くと杏寿郎は驚いたように目を丸くさせながら桜の頬を撫でた。
杏「何故君がそんな顔をする。俺は犯人に君が "約束" を破ったことを知らせてしまったかもしれないんだぞ。自分の尻拭いくらいさせてくれ。」
杏寿郎は友人だけでなくレストランの店員にも探りを入れるつもりでいたが 今はそれを伏せた。
「…ありがとうございます。」
桜は素直に礼を言うと杏寿郎の手に自身の手を重ねて力を抜く。
「ミスコンの実行委員だった先輩に聞いてみます。」
杏「ああ。頼む。」
桜はまだ連絡して良い時間である事を確認するとその先輩にデータの流出について心当たりがないか訊いた。
「……今日話していて怪しいなって人はいたのですか…?」
杏「まだ何とも言えないが可能性はゼロではないと感じた。」
「そう…ですか……。」
杏「それに君が誘拐された時、俺達は丁度大学生だ。年齢が当て嵌まってしまう。」
そう言われると桜はハッとして杏寿郎を見上げた。