第85章 不穏
「あの人はほとんどの時間私といました。大学に通えていたとは思えません。どなたか休学されていませんでしたか?」
杏「殆どか。いや、休学したなどとは聞いていないな。俺は皆とは違う大学へ進学したので実際のところは分からないが…。だが重要な情報だな、ありがとう。」
そう言って杏寿郎が桜の頭を撫でていると桜のスマホが鳴った。
「…………………………。」
桜は喉をこくりと鳴らしながらベッドサイドテーブルに手を伸ばし、画面を見ると目を丸くした。
「先輩からです。こんなにすぐ来るなんて。」
桜は慌ててメッセージを開くとその内容を読み上げた。
「『自分から言い出さずにごめんなさい。ずっと気になっていたの。お金を渡されてデータを渡した事があります。絶対に他言しないし、ネットにも載せないって身分証を見せながら誓約書も渡されて……、』…杏寿郎さん、この名前…ご存知ですか。」
桜が杏寿郎に見せた画像には誓約書に書かれた名前が映っていた。
杏「この予想は当たっては欲しくなかったな。……すまない。これは俺の友人だ。」
その画像に映っていた名は『太田 結城』。
今日の同窓会で杏寿郎を睨んでいた男だ。
「太田…さん。」
杏「彼の写真を見せても良いか。」
その問いに桜は拳を握って頷く。
杏寿郎は桜の意志の強い目を確認するとスマホを手に取った。
そして今日この為に撮った天元と太田が映っている画像を見せた。