第85章 不穏
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杏「ご馳走様!!美味かったぞ!桜は本当にすごいな!!店を出せてしまう!!!」
その真っ直ぐな言葉を桜もまた真っ直ぐに受け止め、ふにゃっとした嬉しそうな笑みを浮かべた。
帰ってから初めて見せる心からの笑顔に杏寿郎もまた嬉しそうな顔をした。
そしてまだ食べている途中の桜を微笑みながら見つめる。
杏「もっと米をよそっても良かったのではないか。君は細いからな。今からでも足そうか。」
「大丈夫ですよ。もう…すぐそうやってたくさんご飯をつごうとするんだから。」
桜はそう言って困った様に笑った。
しかし杏寿郎の笑みは固まった。
杏「…褒められた話ではないが俺は君にご飯をよそったことは殆どないぞ。」
その一言に桜の笑顔も固まる。
「でも…、今、細いからって……、言って…、」
杏「うむ。細いと言って犯人が君にご飯を多く食べさせようとしていたのだな。それだけだ。桜、大した事ではない。」
杏寿郎がきっぱりとそう言うと桜は素直にこくりと頷いて黙々と箸を進めた。
(杏寿郎さん達の事を覚えていたように 奥底ではあの人の事も覚えているんだ。良い事ばかり覚えているって訳にはいかないんだな…。)