第85章 不穏
杏寿郎はそんな桜をぐっと抱き締め直すと目を瞑る。
杏「気にするな。遊び方はいくらでもある。」
「……はい…。」
杏「桜、呼吸を会得することは悪い事ではない。」
そう言いながら桜をトンッと床に下ろすとしゃがんで桜の両腕をしっかりと掴み、眉尻の下がっている顔を強気な笑みを浮かべながら覗き込んだ。
杏「君はもう他の男の名を堂々と呼べるぞ。攫われるなど最悪な状況は避けるつもりだが、億が一捕まった際には真っ先に俺の名を呼べ。ナイフを持っていようと関係ない。俺が相手をしよう。」
その笑みと揺るがない赤と金色に燃える瞳を見ているうちに桜の体の力がフッと抜ける。
その様子に杏寿郎は満足そうに笑った。
杏「それに君も7年前とは異なって遅い時間に1人で出歩いたりしないし、まだ頼りないが自衛の術も身につけた。」
そう言いながら桜の頭を優しく褒めるように撫でると立ち上がり、くるっと冷蔵庫を振り返ってめちゃめちゃな組み合わせの食材を取り出し始める。
「あの…………何を……?」
杏「うむ!今日は調子の優れない君に代わって俺が夕飯を作ろう!!実は最近火の扱い方を勉強していたのでそろそろボヤを起こさずに扱えると思、」
「私が作ります!!」
杏寿郎が最近キャンプご飯のサイトを見漁っていた事を知っていた桜は 杏寿郎が微笑みながら自然の着火剤である松ぼっくりを棚から取り出したのを見てぎょっとした。