第83章 球技大会の予選と杏寿郎の懸念
杏(みのる君の一件で全て露呈して逮捕されたのだとばかり思っていた。桜もそう思っているだろう。お父様もそう仰っていた。)
桜は『うん!』と満足そうに言うとドライヤーのスイッチを切った。
「本当に綺麗な髪ですね。」
杏「そうだろうか。俺は君の髪の方が綺麗に見えるぞ。」
桜は『普通のありきたりな髪ですよ。』と笑いつつ嬉しそうに微笑む。
桜を抱き寄せて左太腿の上に座らせるとその笑みを愛でるように頬を撫でた。
杏(残されていたのは犯人のものだと "思われる" 焼死体か。解剖の結果、その死体は紛れもなく容疑者のものだと結論付けられたと仰っていた。)
そう思い出しながら少し強く抱き締め直すと杏寿郎は優しい笑みを向ける。
杏(――だが、桜は保護された直後 ご両親に『 "また来る" って言われた』と呟いた。ユキと関係なく忘れている言葉なのだろう。訊くのは酷だがやはり…はっきりさせなくては……、)
杏「…………もう寝よう。今日は立ちっぱなしで疲れたろう。」
杏寿郎はタイミングを見計らって訊く事を決意しつつ、桜の手からドライヤーを取り上げてスタンドに戻すと桜を横抱きにして立ち上がった。
「もう、1人で歩けますよ。」
そう言うも桜は無理に降りようとはしない。
それが愛らしくて腕の中を見下ろすと頼りない体の華奢さに杏寿郎の胸がざわついた。